第1回では戦後以来続いてきた教育格差の発見と階層固定の実態について見ていった。では、SESの低い層に対して経済支援を重点的に行えば、教育格差は一件落着、となるだろうか。そんなに簡単なら、教育格差がここまで重要な社会課題にはなりえない。教育格差のなかにいる一人一人を見ると、不安定な生活の背景に、貧困だけでなく、虐待、親の離別、外国のルーツなど様々な事情が時に絡み合って存在している場合がある。そういった子どもたちは「困っている子ども」ではなく、「困った子ども」として認識され、十分な支援を受けることのできないまま教育格差の被害者になってしまっていることが多い。単にお金を与えて終わりではなく、彼らの事情を慎重に見ていく必要がある。第2回では、教育格差のなかにいる個人をみつめていきたい。
子どもの貧困
日本の人口の15.6%が相対的貧困(国民の年間所得の中央値の50%に満たない所得水準の人々のこと)とされており、そのうち約半数はひとり親世帯である。こうした家庭の子どもは、経済的に困窮しているだけではなく、他の問題も抱えている場合が多い。
〇生活習慣の乱れ
親が働きに行く時間が長いことなどでケアが行き届かず、子どもの基本的な生活習慣に乱れが生じる可能性がある。具体的には、歯磨き、入浴といった生活習慣をコミュニケーションを取りながら教える機会が十分にとれなかったり、夜遅くまで起きていたりと、成長期の子どもに精神的にも、身体的にも悪影響を及ぼす。その結果として、集団活動にうまく対応できなかったり、いじめを受けたりなど、不登校になってしまうリスクは高まる。
〇児童虐待
児童虐待の要因は複合的に重なり合っているとされるが、特に、ひとり親家庭や経済的困難を抱える家庭ではリスクが高い、という相関がある。
〇外国にルーツを持つ子ども
外国人児童の貧困を把握できる調査はないものの、貧困の家庭のうち約3割は外国人家庭という推計がある。(宮島,2013)外国人や外国人ひとり親の失業率は高く、非正規雇用の保護者も多く見られる。実際、12万人程いる外国人児童生徒だが、日本国籍を持たない児童には義務教育が規定されていないことや、高校在学率は日本にいる該当年齢の外国人児童の約26.4%とかなり低い数値になっていることなどが問題視されている。中卒、高校中退などの子どもたちに語学力の壁がたちはだかり、日雇いやアルバイトを点々とすることになり、貧困の再生産につながる。また、学校内でも、日本の学校における多文化教育の推進がなされておらず、言語の壁や偏見を受けるなどしていじめ、不登校といったケースに陥ってしまうリスクが高い。
〇障害と貧困
ケアの必要な障害児のいる家庭では、母親は職に就きにくく、その分世帯収入が低い傾向にある。さらにこうした子どもには虐待を受けるリスクが高い。身体障害児は4.3倍、知的障害児は13.3倍との報告がある。また、発達障害を抱える子どもの二次障害として不登校が発生している場合も多い。近年、HSC(Highly Sensitive Child)という子どもの存在がクローズアップされてきている。具体的には参考文献5を参照してほしい。
まとめ
貧困家庭にある子どもは、ただお金がないだけではなく、複合的に問題を抱えているケースが多い。貧困を軸に、外国にルーツを持っていたり、障害を持っていたり、虐待、いじめなどを受け、心身共に困難を抱えている子どもたちがいる中で、教育格差を考えるうえで児童福祉の問題を無視することは出来ない。ただ経済的な支援を行い、学習する機会をより多く提供するだけでいいのだろうか。もちろんそれだけでは解決しないからこそ、現代まで残り続けている大きな問題なのである。一度、自分の小学校時代を振り返ってみてほしい。クラスの中に周りの友だちや、先生から問題のある子とされていた子、不登校になってしまっていた子はいなかっただろうか。もしかしたら、彼らも見えない困難を抱えていたのかもしれない。もう一度、そうした子どもたちが教育を受けるにはどうしたらよいのか、「教育とは」という根本的なところからこれからの教育の未来を担う私たち学生が問い直していくことが必要ではないだろうか。
【参考文献】
1.内閣府(2015)「相対的貧困率等に関する調査分析結果について」<https://www5.cao.go.jp/keizai3/kakusa/20151218kakusa.pdf >
2. 宮島喬(2013)「外国人の子どもにみる三重の剥奪状態 (特集 社会的排除と子どもの貧困)」『大原社会問題研究所雑誌』<https://hosei.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=9426&item_no=1&page_id=13&block_id=83 >
3. Learning for All「【子どもの貧困と不登校】〜不登校で表面化する子どもの課題〜」(最終閲覧日:2020年7月14日)<https://learningforall.or.jp/topics/column/school_refusal/ >
4. 矢元貴美(2017)「フィリピンにルーツを持つ子どもたちの困難 ―日本の学校で学ぶ子どもたちに焦点を当てて」<https://www.mgu.ac.jp/main/educations/library/publication/pre_kyodo/no21/21_4.pdf >
5.NHK バリバラ「敏感君のゆううつ~HSCの子どもたち~」(最終閲覧日:2020年7月14日)<https://www6.nhk.or.jp/baribara/lineup/single.html?i=1152 >