2020年8月23日から9月6日にかけて開催された「学生のための政策立案コンテスト2020」において、全国から集まった72名の学生が立案した政策案です。今年はオンライン開催という形ではありましたが、ヒアリングやコンサルなど様々なコンテンツを経て、素晴らしい政策案が出揃いました。
最終的には3チームが決勝プレゼンテーションに進み、Jチームが優勝となりましたが、どのチームもコンテストを通して詳細まで議論を重ね、それぞれのチームが工夫した政策案を考えることができたと思います。
ここでは特に順位や政策の実効性のみに囚われるのではなく、参加者の方々の思考に触れる機会となれば幸いです。
※スライドの画像をクリックしていただくと、各チームが政策案発表の際に用いたスライドのページをご覧になれます。
決勝進出チーム政策案
優勝:Jチーム 「教育の『土台』格差」是正プログラム
優勝:Jチーム
「教育の『土台』格差」是正プログラム
Q1.Jチームの政策案を教えてください。
Jチームは「教育の『土台』格差」を解決するために三つの政策を考案しました。
まず、「教育の『土台』格差」とは、家庭において「衣食住」や「物理的安全」、「精神的安定」「学習環境」などの問題を抱えており、教育にきちんと参加することもままらないような状態に追い込まれている子供とそうでない子供の育つ「養育環境における格差」です。
こうした格差を是正するために、Jチームは
①市町村子供データベースで全ての子供の状況をチェックし、
②その情報から困難を抱える子供たちを把握し、その子供たちに対して子育てケアマネジャーによる支援によって既存の各種サービスと家庭を結びつけるシステムを構築し、
③要支援の子どもには家庭の養育環境の一部を特定こども園または第三の居場所が代替する
という三つの政策を打ち出しました。
Q2.その政策を打った意図は何ですか。
Jチームがこの政策を打ったのは、「教育への参加」もままらない子どもがいる現状があり、それらを改善することこそが「教育格差是正」の第一歩なのだという意図・意識が共有されていたからです。
Jチームは最終的な理想状態として「全ての人が人生の可能性の追求を阻害されず、自分の未来を考えて選択していけるような状態」を掲げました。しかしながら、現状分析を通して、学校制度や教育内容以前に「教育を安心して受けられない」状況の子どもたちが存在するということに気づきました。上のような理想状態はもちろん達成されるべきだと考えましたが、このような困難を抱える子どもたちの現状との差を考えると、あまりにも乖離があり、今回の政策ではまず最初に全員の「教育への参加」が可能な状況を目指すべきではないかという結論に至りました。
そのような問題意識の中、このチームが注目したのは「10歳の壁」というものです。「10歳の壁」というのは、学習内容が抽象的になる10歳頃に、それまでの認知の応力の発達や学習習慣の有無が明確な学力差となって顕在化してくる現象であり、どういう状態で10歳を迎えるのかが重要になってくるのではないかと考えました。そこで私たちは10歳より前の段階で、なおかつ「①健康・衣食住」「②物理的安全」「③精神的安定」「④学習環境」という四つの教育の土台となる部分が欠けている子どもに対して、政策を打つことで、この政策で目指す理想状態を達成しようと考えました。
Q3.その政策を打った意図は何ですか。
Jチームで特にこだわって議論していたのは、
①この政策は本当に今回政策で達成すべき理想状態まで現状を改善してくれるものであるのか?実効性はあるのか?
②支援の対象が明確にイメージできているか?その対象となる人たちの視点から考えられているか?
の2点だったかなと思います。
①のこだわったポイントは、最初に立案した際に、政策案が現行政策を組み合わせることを優先した結果、自分達が達成したい目標から離れてしまったという反省から生まれました。その後に作り上げた政策案は、「本当にこの『教育格差』という問題の全体像を見た時に、整合性が取れているのか?」、「三つの政策によって実際どのような流れで子どもたちや親は現状から抜け出すことができるか想定できているのか?」といった視点を常に意識しながら全員で納得のいくまで議論を重ねることで、詰められたものになるよう熟考しました。
②の点については、子どもや親が今回の政策の影響を受けた時の感情や、具体的な問題についてあらかじめ考えられているかどうかということ、そしてきちんとどのくらいの人数の子供たちがこの政策の対象となっているのかを想定できているのかということを議論しました。例えば、要支援という判断をされた子供に対して第三の居場所に行くことを義務化するかどうかという点に関して話した際に、このような義務を子供たちが負った場合、学校で放課後友達と遊ぶ自由を子供たちは奪われることにつながるのではないか、しかしながら強制力がなければこの問題は解決しないのではないかなど様々な視点から一つの決定を下すのにも議論を重ねました。
このような参加者同士での問題意識の共有や、時には対立する主張の中で全員が納得のいく形で政策立案を行いました。
準優勝:Qチーム 「自己実現」可能な社会を目指して
準優勝:Qチーム
「自己実現」可能な社会を目指して
Q1.Qチームの政策案を教えてください。
「すべての子どもに社会的教育を」と銘打ち、幼児教育施設の職員数拡大をスピーディーに行うのためのシステム作りとして人材の登録制のプラットフォームとして「人材バンク」を創設することにしました。加えて問題を抱えているかもしれない問題を幼児を取りこぼしなく支援の手を差し伸べるシステム作りとして3歳児検診時点での専門家も配置・無園児には4歳児検診の実施、最終的な受け皿としての里親制度の拡大を図るための広報費用の保障を政策として打ち出しました。また地方自治体ごとに「教育提携都市」を設け価値観の相対化を図ろうとしました。
Q3.立案中に特にこだわって議論した点はありますか。
教育の目的として子どもの理想とする自己を実現する足がかりになることだと考えました。その達成にはまず子どもの見えている世界(視野や選択肢)の拡大を図る必要があると考えました。その視野の拡大を図るうえで重要な幼児教育段階に手を打つこと、また地域ごとでの価値観の固定化に対して手を打つことが有効であり、そこを解決しようとしました。
Q3.立案中に特にこだわって議論した点はありますか。
教育の目的とは何か、幸せとは何かを深く話し合いました。抽象的な話をしていくのはなかなか政策立案をしている実感を得ることができず、つらくもありましたが、この根底の部分がチームで共有されていないとその後の手法考案段階で意見がずれてしまうと思ったのでかなり時間をかけて話し合いました。
3位:Gチーム 「教育政策の三本の矢」
3位:Gチーム
「教育政策の三本の矢」
Q1.Gチームの政策案を教えてください。
子育て家庭の経済基盤を支える福祉政策と非認知能力育成に主眼を置いた教育政策、そしてICTを用いた実証実験と検証を三つの軸として政策案を考えました。
Q2.その政策を打った意図は何ですか。
まず、福祉政策と教育政策はどちらか片方だけでは教育格差は解決しないと考えて、両方に打つ必要があるとチーム内で結論に至りました。また、教育政策の効果を評価するものがないことが最大の問題だということで、実証実験と検証を政策案の中に盛り込みました。
Q3.立案中に特にこだわって議論した点はありますか。
まず、競争社会を是とするかどうかで意見が分かれました。今回はチームとして、現在の学歴社会、競争社会に合わせた形の政策案を作る方向性になりました。また、自分達でEBPM(証拠に基づく政策立案)と言っている以上、何かの思い付きではない、ある程度効果が見込めるであろうものに焦点を絞って政策を考えました。
各チーム政策案
Aチーム
社会が個人を包摂することによって、皆が自立することのできる社会を構想し、そのための重要な一ステップとして、真のインクルーシブ教育の実現を政策案としました。
まず、理想の社会を構想した際に、個人が自由であることを重要な目標に挙げました。自由とは、最低限の意味においては、他者に隷属していない状態です。自由であるためには、自立(何でもかんでも自分でやることを意味せず、必要に応じて他者の力を借りることを含みます)している必要がありますが、私たちは、包摂あっての自立、すなわち、他者との関係の中で初めて自立ということが可能になると考えました。その点、現在の社会は、自立あっての包摂、つまり、自立した個人であって初めて社会に参加できる、という考えのもとに種々の制度を設計しているという問題を抱えています。私たちは、包摂→自立という順序を重視し、今回は包摂を達成することを政策目標に掲げました。そして、包摂を実現する際に着目したのが、公教育の領域です。公教育は、日本国内で生活するほとんど全ての子どもが一同に会することのできる数少ない場であり、ある意味そこで既に社会(「みんな」)が形成されうることから、公教育における包摂なくして、包摂的な社会なし、と考えました。そこでAチームは、包摂社会の実現のための重要な布石として、包摂的な公教育の実現、真のインクルーシブ教育の実現を掲げました。もちろん、教育は目的達成のための手段にとどまらず、それ自体目的たりえます。子ども時代のウェルビーイングは十二分に大切にされるべきだからです。
理想状態に関する議論にもっとも多くの時間を割きました。議論を通して、Aチームは、機会の均等はそれ自体目的ではなく、一人残らず社会に包摂されることが大目標であること、また、機会の平等のみによってそれは達成されえないことを確認しました。また、政策案についても、個別具体的な施策より、真のインクルーシブ教育という全体的な政策方針の考案により注力しました。日本における現在のインクルーシブ教育のあり方について批判的な検討を通して、障害だけでなく、貧困、ジェンダー、エスニシティなど、様々な背景・困難を抱えた子どもたち全員が出来るだけ同じ場を共有できるように、公教育があるべきであること、分離教育は例外的な措置であるべきこと(少なくとも、インクルーシブ教育を実現するための最善の努力がなされた上でのことであること)が重要だという考えに至りました。
Bチーム
個人がその属性に関わらず学習機会と充実した学校生活を平等に保障されることを目標としました。政策を考えるにあたっては、属性を性別・障がい・外国へのルーツという身体的なものに絞り、制度面と意識面の二つからアプローチしました。
学習機会と学校生活の保障に注目した、つまり、機会や結果よりも教育のプロセスの中にある格差に着目した意図としては、加熱する受験競争によって競争原理ばかりが優位になる学校生活に、共生原理を根付かせたいと考えたからです。確かに教育は学習の先にある目標を達成する為に行われるものですが、同時に生徒の日常の一部となり多大な影響を与える場となります。
また、対象層を上であげた3つに絞った経緯としては、生まれもった特性が環境によって優劣を規定されるという構造に強い意識を感じたことによります。自己の特性によって、教育現場で疎外感を感じた時、自分を否定することに繋がってしまうと考えました。
そして、制度面と意識面での双方から同時にアプローチすることは教育現場を変える為に必要不可欠であると考え、網羅的な政策を立てました。制度を変えたのみでそれを運用する人間の意識が変わらなければ実効性を得られない、反対に人々の意識が変わっても当事者が学校教育制度から排除されてしまうようでは意味がないためです。
いかに「当事者の視点」にたった理想状態をたられるかという部分に拘って議論を進めていたと思います。我々の想像力には限界がありますが、真摯にその限界を受け止め、試行錯誤しながら議論を進めて行ったと思います。ヒアリングや記事から地道に情報を集め、事実をバイアスなく受け止めることに重きを置いていました。
Cチーム
私たちのチームでは子供に主体的に学ぶ力を育み的確な進路選択をしてもらうために主に三つの政策案を考案しました。まずは幼児教育に対する政策です。幼児教育の場で現在、生徒の自己決定力を育むような教育がなされていないことを問題として捉え、新たな幼児教育の資格制度を作ることで潜在保育士の就職先を確保し、子供に自己決定力を身につけさせることを目標としました。二つ目に小中学校と高校で行われている総合的学習の時間を強化することです。教員の自主性に授業が任せられていることを問題視し、教員に対して研修を行うことと、既存の評価方法を見直して、過程と結果の両面で評価できるようにしました。三つ目の政策として、高校生が就職する際に適切な情報を得られていないと言うところに問題意識を持ち、高卒ジョブサポーターの仕事を強化して、情報提供を仕事内容に組み込むことと、安定した人材確保を目的として任期を伸ばすことを考えました。
私たちのチームは幸せであるということの要因として自己決定力を身につけていると言うことが大きいと考えました。その自己決定力が現状の教育制度では環境によって身に付けることができている人と身に付けることができていない人がいることを問題であると考え、その問題の是正を目的として政策を考案しました。また、私たちのチームでは幼少期にどれだけ格差を解決しようとしたとしても教育の終点の段階でそれぞれの子供の出口の広さに違いがあってはいけないと考え、高卒就職者に向けた政策を同時に考案することでその出口の問題への解決を図りました。
私たちのチームでは特に現状分析に力を入れました。ヒアリングや政策勉強会、ケースブックなどを読む中でい使った問題を様々なフレームを用いて分析し、分類すると言う作業二かなりの時間をかけました。また、理想状態を考案するにあたってもとにかく何かしらの根拠を持って理想状態を作ることを目標とし、抽象的な理想状態をあげた後は松岡氏の「教育格差」に縛られるのではなく自分たちの考える様々な理想と、分析した現状とをすり合わせながら、根拠のある、具体的な理想状態を考案しました。
Dチーム
①教育年金制度による教育投下予算の増加
高齢者を支える現在の年金制度とは別に、現役世代から課題を抱える子供たちを支えるためのお金を徴収する教育年金制度を作ります。支援の拡充によって子供たちの教育環境が改善することで、将来的な税収増が見込まれます。その増収分をリターンに当てる仕組みです。
②学習支援事業等の教員養成課程への組み込み
課題を抱える児童それぞれの現場でのサポートを、教員養成課程のカリキュラムに組み込みます。課題を抱える児童にとっては、サポート学生という新たな支援リソースが生まれるほか社会関係資本の充実化が見込めます。
また教師を目指す学生の実践機会を増やすことによって、座学で培った知識の定着や経験に基づくより精緻な現状把握を図り、将来的な教師の資質・能力向上を目指します。
③外部講義(オンライン+オフライン)&新課程「社会正義」
義務教育段階から、様々なバックグラウンドを持ちながら社会で活躍する人の話を聞く授業を設置することでその人の属性に関わらず多様な進路イメージを描く手助けをします。また講義と並行して身の回りや、日本社会で起こっている問題をトピックとしてディスカッションを行い、「公正」とは何かということを対話を通して考える機会を設けます。
④入試制度改革
高校や大学入試における入学試験に特別枠を増設して、現在の学力偏重型入試制度からはこぼれ落ちてしまう層の大学進学率向上を目指します。
⑤企業認定制度の拡充・改変
くるみんマークやえる星制度を参考に、男性が育児休暇を取りやすい企業や女性の理系進学を促進する企業に対して新たな認定制度を設けます。それにより、女性がキャリアを継続しづらい現状、理系進学率の低さを是正します。
まず私たちは、教育格差について「生まれ・性別・環境などの、自分ではどうしようもない属性によって生じる希望権と学習権の格差」と定義しました。希望権格差とは、自分のあらゆる可能性、選択肢を描けるかどうかに差があること。学習権格差とは、その人の自己実現のために必要な教育を満足に受けられるかどうかに差があることです。
次に、メンバーそれぞれのバックグラウンドや経験、抱える課題感から政策対象を貧困/ジェンダー/障害/外国籍の4セグメントに決め、現状分析を行っていきました。はじめは話し合いのうちにセグメントを絞って政策を作ろうという前提で議論していましたが、異なるセグメントであっても重なる問題領域があること、またさまざまな差別の軸が組み合わさり、相互に作用することで独特の抑圧が生じている状況(交差性)があることから、上記の4セグメントの希望権と学習権を網羅的に保証する政策を立案することになりました。
教育格差は問題領域が広範に渡り、複雑に作用し合っているため、政策対象を4つのセグメントに絞ってしまうことの是非について意見が対立しました。現行政策や民間組織の活動を吟味し最も支援が行き届いていない層を探した方がいいのではないかという意見も出ましたが、学生が集まって政策立案することの意義を考えたときにそれぞれが学んできたことや感じてきたこと、実際の目で見てきたことを取り入れたいというメンバーの思いが一致して対象層決定に至りました。
Eチーム
「フォーアイプロジェクト」と題した政策パッケージを提案しました。活動の評価による誘引作り、大学・企業の誘致、教育環境の改善、教育支出の増加と財源確保という、主に四つの目標を掲げた政策案です。大学に対してはサテライトキャンパスの設置により地方での大学収容力を拡大し、企業に対しては「地域教育パートナー」として認定し、社会教育への参加を促した上で、テレワーク導入と法人税減免措置により本社機能の移転を促しました。誘致した企業と自治体の協働で地域の社会教育施設の設置、さらに、低SES層の児童を対象とした放課後学習支援による居場所づくりを行います。ここまでの活動は、地方自治体の財政力により教育費支出に格差がある現状を問題視したものですが、必要な財源の確保については条件付き貸出制度を養育・教育保険の設置により解決されると考えました。前者は教育費支出の下限として「地域標準化園教育費」を設定し、それ以上の教育支出を義務化、財政的に厳しい地方自治体には教育支出への運用を条件とした貸し出しを行う制度です。後者は養育・教育に困難な状況に陥った家庭に対する任意保険です。
教育における地域格差は、格差の当事者が自身の能力に応じて持っているはずだった選択肢が地域の規範や環境により見えなくなっていることに気付きにくいという点で、自助努力による解決が難しい問題です。そのため、国として政策を打つべきだと判断し、地域の活性化による教育サービスの流入・充実化と、地域規範の打破を目指しました。大学の移転により地域の大学収容力を拡大し、企業の移転により都心からの人口流入・地域活性化を図って地域の多様性確保を狙いました。地方自治体によって教育支出に格差があることは明白な教育格差なので、それを改善するべく、企業へのパートナー認定によるインセンティブ作り、企業・大学誘致と誘致企業による社会教育制度拡充、さらにそれによる教育環境の改善、そしてこれらの活動を支える財源確保、と言った好循環を促す政策パッケージです。
どの問題に対して政策を打つかで議論が難航しました。「教育格差」は非常に多様な問題と関わりが深いため、対象層を絞る際には、国家が介入することの妥当性や、政策による解決に実現性を考慮したとしても、対象を絞り切るのが大変でした。班員の問題意識や、社会的影響の大きさ、また現行政策の充実度などを考慮した結果、問題の当事者に自覚が生じにくいことを最も問題視して、地域格差に取り組むことにしました。また、地域格差に取り組む以上、人や物の移動に着目した政策が増えるため、理想状態である「『持てる選択肢』にするために最大限障害物を取り除くこと。持てる選択肢の中の、『見えない選択肢』が全員『見える選択肢』になること。」との接続について議論を深めました。すなわち、教育格差是正という目的を忘れないよう、政策により達成できることと、その外部影響を議論しました。
Fチーム
我々は「子どもを守る支援の輪ーつなげて守ろう子どもの未来ー」と題し、小中の義務教育段階におけるハイリスク層の子どもたちを担任、スクールソーシャルワーカー(以下S S W)を通じて発見し、S S Wが彼らを地域のN P O等の支援団体につなぎ、あらゆる境遇における子どもたちが個々の自己実現を達成し、学びに目を向けられる状態にする政策案を打ちました。具体的には1つ目に常勤S S W人材の確保のために、問題意識が高まっているS S Wの低賃金の改善に向け、常勤で働ける水準までの賃金の引き上げによって金銭インセンティブを高める制度作りを挙げました。その上で短期目標として5年以内に1中学校区に1人、長期目標として10年以内に各小中学校に1人の常勤S S W配置を掲げました。2つ目にS S Wの質を担保するため、事務局創設のもとS S Wの雇用体系並びに研修体系の一本化を提案しました。三つ目にS S W業務ガイドラインおよび連携フローチャートの作成・試行を主張しました。
まずS S Wの賃金上昇政策については、背景としてS S Wの数が伸びない大きな理由としてS S Wの専業のみでは低収入となり生計が立てられないということが挙げられます。そこで我々は金銭インセンティブを登用して、S S Wという職業の確立および人手集めを考案しました。常勤と指定しているのは小中学校の生徒にとって常勤であったほうが正しい現状把握をした上で、問題解決に繋がりやすいと捉えたためです。2つ目のS S Wの雇用、研修体系一本化については、県単位の厳正な管理によってS S Wを適材適所に配置することで質を担保しつつ、自治体単位で起きやすい隠蔽なども防ぐ目的があります。最後のガイドラインはS S Wの役割、N P Oにどのように繋ぐかなどを国主導で作成することで、各地域現場に委任しつつも指針はぶらさないという目的があります。これらの提案は、義務教育段階において、様々な要因により困難な状況にある児童・生徒を発見かつ支援し、彼ら全てが安心して生活・学習ができるような状態にするという大きな目的のもとに考案されました。
我々の政策の根本には、文科省がここ数年で掲げているS S W1万人導入という政策をブラッシュアップするということがありました。19億円ほどの予算を拠出し令和2年度までに1万人S S W配置を実現させようとしていましたがその実態は不明であり、各学校のS S W配置数から分析する限り依然達成されてはいません。限られた情報の中でいかに正確なデータを収集し分析を行うかという点はこだわりました。また、義務教育段階におけるハイリスク層にフォーカスするという決定の前に、就学前における養育環境の格差についても検討しましたが、それぞれのメリットデメリット、我々が何に特に問題意識を持つのかなどは慎重に時間をかけて議論をした上で絞り込みを行いました。
Hチーム
私たちの政策案は「社会の中の学校ー学校フル活用計画ー」と題しまして、小学校の子どもたちの学校外の充実を図るものを考えました。考えたものは大きく分けて居場所支援、学習支援、ワールドオリエンテーションがあります。居場所支援としては学校で晩ご飯の提供などを盛りこんだ居場所の提供を行うものです。環境によって努力ができない状態にある子の環境をまず整えてあげることを目的としています。そして、学習支援は異年齢で集まりお互いに教え合いをします。教え合う形式を取ることで協調性やリーダーシップなどが育まれることを期待しています。最後のワールドオリエンテーションは、休日を使って少人数のグループで調べ学習を行い、さらにその分野に関係のある方にICTを使いお話しを聞ける機会を設けることを考えました。子どもが達成感を経験し、目標設定をできるようになることで生まれ持った環境に左右されずに将来を選択できるようにして格差が連鎖しないようにします。
私たちのチームは、教育格差の是正された状態が「子どもが将来を選択できる可能性があること」「子どもが選択・目標設定したことを努力できる環境があること」「子どもが将来を周囲の力を得ながら想像し、主体的に目標設定すること」としました。また、高校で将来のことを決定するように見えるけれども、高校の選択は小学校からの結果なのではないかと考えました。さらに、放課後の過ごし方に貧困家庭とそうではない家庭の違いが最も大きく現れていると考え、小学校の放課後や休日にしぼり、是正された状態で挙げた環境や能力はどのように与えていけるのかを考えました。その上でどのようにしたら必要な子供たちにも支援が行き届くのか、レッテル貼りにならないようにするにはどうすべきかなどを考えていき、一部の子どものみに対して行うものではなく全ての子どもに対して開いたものにした上で、声かけを行っていくように工夫をしました。
評価できるものは何かということに気をつけました。子どもが将来を肯定的に描けないことが問題だということで、理想状態の一つに「主体的に目標設定をする」ことを挙げたため、非認知能力の重要性について話しました。非認知能力はあまりにも広すぎる上に、目に見えない能力であるからこそ計ることが難しいことを感じました。それは政府の行う政策としては結果が見えにくいものになるため良くないのではないかと考えました。そこで改めて理想状態に立ち戻ったときに、もう一つの理想状態としてあった「努力できる環境」はどのようなものなのかを考えました。「努力ができる環境」として、大きく家庭のことが関わってくることはわかりましたが、教育が家庭に押し付けられていることや親も仕事で忙しいということを踏まえて、家庭の負担を増やすようなものにはしないようにしながら「努力できる環境」を作るにはどのようにしたら良いのかを様々な可能性を考慮しながら考えていきました。
Iチーム
私たちIチームは、「BRIDGE計画」という政策案を立案しました。
まず、私たちの政策案の軸となる政策は、ポータルサイトを提供することで様々な選択肢を子どもたちに紹介する役割を持つ「WILL計画」です。この政策の対象年齢は、小中学生であり、アクターは義務教育の場である学校となります。しかし、虐待やいじめなどにより、義務教育の場に参加できていない子どもたちは、ポータルサイトを利用する機会がなく、「生まれ」によって選択肢が制限されてしまうこととなります。だからといって、不就学児や不登校児の中で虐待やネグレクトが疑われる家庭に行政が介入すること、そもそも彼らを発見することは現実的ではありません。
そのため、私たちの政策では「COMFORT計画」におけるネウボラ制度を通して、不登校や不就学の原因を無くすことで、それらの発生を未然に防ぎ、将来不就学や不登校になる児童の減少を目指し、長期的に「不就学・不登校0」を達成します。
私たちの「BRIDGE計画」は、「COMFORT計画」と「WILL計画」を融合させることで、最終目標である、「自分から必要な支援を探せる力」の育成を目指します。
私たちは教育格差を『目標となり得る選択肢の量と種類が「生まれ」によって制限されている状態、目標を持っていたとしてもそのために努力をできる人とそうでない人がいる状態』と設定しました。しかし、社会構造を変革するには長い時間を要する為、教育格差の要因と思われる地域格差・学歴社会・所得格差などの社会状況を前提として立案することにしました。
政策を立案するにあたり、私たちは、➀「生まれ」によって選択肢が制限されていること(教育格差)➁必要な人に必要な支援が十分に届いていないことの2つの問題意識を持ちました。そして、「教育格差」が是正された理想状態を➀目標となり得る選択肢の量と種類が生まれによって制限されていない状態②それらの選択肢を知った上で自分の目標を決め、そのために努力しようと思える状態➂目標達成に向け、必要な支援を自分で見つけられる状態に設定しました。
この理想状態を実現する為、「BRIDGE計画」という政策案を立案しました。
どこからが「許容できる格差」で、どこからが「許容できない格差」なのか、ということを特にこだわって議論しました。教育格差が是正されない要因には、「地域格差」・「学歴社会」・「所得格差」があるものの、資本主義社会の日本にとっては、この格差は許容範囲内であるという考えに至り、それを踏まえて政策を立案しました。
また、今回私たちは「自分から必要な支援を探せる力」の育成を最終目標としました。その理由には、現在の日本には、既に多くの支援制度や支援施設、奨学金制度などが存在しているのにもかかわらず、その普及率・捕捉率が低いという現状があるからです。そのため、新規の支援制度をつくるのではなく、既存の支援制度を児童生徒が自らアクセスする力を身につけることが重要だ、という結論に至りました。
Kチーム
Kチームでは「幼児教育の義務教育化」を政策案の軸として、具体的に4つの政策を考えました。1つ目は、現在の幼児教育無償化を引き継いで、公立・私立関係なく無償化を行うとともに「隠れ保育料」と呼ばれる利用料以外にかかるお金をバウチャー制度で低所得者に向けて支援することです。2つ目に、カリキュラムを幼稚園化して、3~6歳の子どもを対象に、9~14時まで週5日、小学校への接続を円滑にするための教育を行うことです。具体的な教育内容は、基本的な生活習慣やタイムマネジメントなどを身に着けさせること、他者とのかかわりあい方を学ぶこと、やりぬく力や自己肯定感など学びの基礎となる非認知能力を身に着けさせること、としました。3つ目に人材確保の政策として、職員の負担軽減の観点から、事務的な仕事を行う無資格者や、カウンセラーの採用を考えました。4つ目に学校間格差を軽減するために、実態調査に基づき特別なニーズを必要とする子供の数や家庭の収入などに応じて資源を傾斜配分することとしました。
「人生のいずれの段階でも格差は確認されること」と「格差は未就学時点で存在すること」から就学前からある格差がそれからも維持・拡大され続けている点に着目しました。また、義務教育ではないがゆえに受ける教育が家庭によって幅があり、かつ小学校での生活にうまく適応してより学力をつけるのは就学前から適切な幼児教育を受けた子どもたちであると考えると、幼児教育に積極的介入すれば人生の初期段階に生まれる差を少しでも減らすことができると結論づけ、幼児教育を政策対象としました。そのうえで幼児教育へのアクセスが家庭環境によって制限されていること、幼保二元体制により教育の質が施設によって異なることを問題視し、全員に良質な幼児教育を提供したいと考えました。そこで、全員に無料で教育を届けられ、統一的なカリキュラムにより質を担保できる、幼児教育の義務教育化を政策手段として採用しました。
私立幼稚園の扱いについて深い議論がありました。徴収する費用や教育内容が公私で違うのに政府が一律で無償化することは、義務教育として質の平等化の観点から適切なのかという議論がありました。一方無償化しなければ私立にはお金持ちばかりが行くことになり、家庭収入によっていける施設の格差を生む懸念も出ました。関連して、学区制を導入するかどうかも議論がありました。義務教育ならば小中学校のように学区で行く学校を決めることが適切ですが、私立幼稚園を義務教育に組み込まざるを得ない状況を考えると、学区制にすることで地域によって通う施設の質の不平等を生む懸念がありました。また、義務教育としてカリキュラムを強く統制すると、独自の教育を行う幼稚園が反発するという懸念もありました。完全公営化も議論に上りましたが、私立幼稚園の占める割合から現実的ではないと判断しました。最終的には私立幼稚園も無償化し、学区制ではなく緩い選択制を導入し、カリキュラムは統制しつつ特色がでる時間も確保すると結論づけました。
Lチーム
私たちは子どもたちが安心できる環境が整っていないこと、親や子供が相談できる人がいないことなどが教育格差の大きな要因の一つと考え、図書館を中心とする居場所づくり事業である「ライフラリー事業」と新たな保健師資格を導入し一家庭に一人保健師が付く「すくすくサポート事業(略してすくさぽ)」の二つを政策として掲げました。一つ目のライフラリー事業では行政と民間・NPOが協力し図書館内に子どもがいつでも来ることのできる環境を用意します。私たちは本当に支援が必要なのは勉強する環境自体が整っていない子どもたちであると考え、学習支援のみならず生活習慣を整えることも目指しました。二つ目のすくさぽは現状厳しい環境にある家庭が他人に相談できていないことを念頭に、妊娠期から一家庭に一人の保健師が付き、必要であれば各機関と連携しながら子育てをサポートすることを目的としています。ライフラリーとの連携も積極的に行うことにより、子育て家庭を中心に安心して勉強できる環境を整えることを目指しました。
私たちは教育格差を考えるにあたり、まず誰がいちばん不平等な待遇を受けているのかを考えました。それぞれの子どもが様々な問題を抱える中、社会経済的地位が低い層(以下低SES層)の子どもがいちばん不利益を被っているのではないかと考え、低SES層の子どもたちは高SES層の子どもたちと比べ、安心できるような居場所が確保されていないという状況があり、勉強もままならない境遇にある子どもも少なくないことを知りました。同時に子どもだけでなく親も自分の悩みを相談できる環境が整っていないことで、子どもの選択肢を奪ってしまっていることも私たちのなかでかなり議論となりました。居場所の問題と相談できる環境がない問題は相互的に絡み合っているところもあり、これらの問題を解消または少しでも軽くすることが教育格差の是正につながると考え、政策を打つことにしました。
私たちはまず教育格差を考えるにあたり大学進学が絶対正義であり、大学で何をしたか以上にどこの大学に所属していたかということが職業選択に大きく影響する社会自体に疑問を持ちました。大学の存在意義や社会の在り方については、政策を最終的に決定するまで幾度となく議論となり、そのたびに先の見えない思いをメンバー全員で共有していました。結果的には政策によって社会の在り方や人々の考え方自体を変えることは難しく、長期的なパラダイムシフトが必要であると判断し、大学やその後の就職制度なども現状のまま維持されている社会を前提に政策を打つことにしました。私たちの中でこの「大学問題」が根本的に解決されたとは言い難いですが、当たり前のように大学進学を選んだ私たちが大学の存在価値やその社会について真剣に考えた時間は、本コンテストの中でも特に重要な意味を持つものであったと感じています。
Mチーム
私たちMチームは現状分析をしていく中で大きく以下の4つ
1 現行制度、法改正が有用なものか
2 日本の税制度のあり方
3 教育格差の認知の問題
4 生き方にゆとりがもてない社会
に問題意識を抱き、それぞれに対してボトムアップとトップダウンを基軸とした政策案を考えました。
1に関しては情報の一元化、諸制度の利用率の向上、当事者(マイノリティ)の声を政治・行政に届かせることを主眼にアプリ等を利用した各種政策を打ちました。
2,3に関しては若者の投票率を上げることが一つ手段として有用ではないかと考え、電子投票の実施や、アプリで行政との距離を縮めること、また学校現場での主権者教育や衆議院における世代別選挙区制度の導入を提案しました。
4に関してはアイデアとして「人生の夏休み保障制度」を打ち出しました。対象は全国民、期間は総計1年(12ヶ月)とし、効果としては年齢主義的傾向が弱め、ゆとりを生み出すことを期待しています。
上記の通り、私たちのチームが問題意識を抱いた点は大きく4つあり、ここではその内容を詳細に紹介したいと思います。
1に関しては、①行政機関、地域団体、NPO、医療機関などの間の情報共有プラットフォームがないため現状認識に齟齬が生まれている。②支援制度はあるが、申請主義や情報のアクセスの問題が障壁となり実際には支援に繋がっていない。③主に高SES層に政治・行政の場が占められ、また現場の声をどこまで拾えるかは行政官個々人の力量に拠るところが大きい。の以上3つのことがボトルネックとなっていると考察しました。
2に関しては根本的かつ大局的な問題として、日本は公の次世代への投資額が少ない(子育てを私費に任せる傾向が強い)、税の再分配後において貧困率が改善されないことがあると考えました。
3に関しては、特に支配者層、困難な状況に置かれている当事者において、それぞれの「ふつう」を当たり前とし、自身が置かれている状況を客観的に捉えにくいことが背景にあると考えました。
4に関しては、「自立」支援制度が多く散見され、自立をせかされる風潮や、新規学卒一括採用に見られるようにレールから外れると不利な状況に置かれてしまうゆとりのなさが社会における息苦しさを醸成しているのではないかと推察しました。
やはり理想状態です。教育格差という問題は教育の分野だけに留まらず幅広く社会全体に関わる問題であり、最終的に我々はどういう社会に生きたいかという問いに行き着くと思うんですね。私たちは議論の末、回り道が許され、もっと生き方にゆとりが持てる社会 を理想状態に据えることにしました。具体的には、例え一度ドロップアウト・立ち止まっても大丈夫な社会 、また依存先を増やせる(もっと他人に頼れる)社会を指します。立ち止まらないように支援することも必要ですが、それ以上に例え立ち止まったしても、そのことに対して寛容で、いつでも再起をかけることができる社会であってほしいと思います。
Nチーム
僕たちのチームはデータベースを利用することで、今まであらゆる理由で埋もれていた各NPO支援団体と助けを必要とする子供たちのつながりを強化しようとする政策を考えました。具体的には、子供に関するデータを収集すると同時に、支援者側のデータも同時に集めることで適切なマッチングが行われるような仕組みを考えました。短期的には今現在困っている子供たちを取りこぼしなく発見し、適切な支援団体とつなげられること。さらには、そうしたデータが蓄積すれば、長期的にはビックデータとなり、それまで日本にかけていた教育に関する有用なデータが全国規模で集まる。それは今後の教育改革につながる点で有用と言えます。
この政策の目的は、本来持つべきであろう社会関係資本の欠如を解決することで格差是正を目指すものです。志水さんをはじめとする専門家や日本財団の調査による現場の方々の声からわかること、それは貧しければ貧しいほど、環境が困難であればあるほど、社会関係資本が充実していれば、その状況から抜け出せる可能性が他の層よりも大きいということ。近年でも関係性の貧困などが注目される中で、文化資本や経済資本ではなく、あえて認識されずらい社会関係資本に注目しました。
問題領域特定に至る過程ではたくさん時間をかけました。同じ学生でも教育格差に関する思いも違えば、考え方も違う。今までに違った道を通ってきた4人であり、そんな簡単に意見が一致しないのは当然でした。それでも問題意識をチームとしての合意を取った上で定めなければいけない。もちろん口でいうほどこの過程は簡単ではなく、あらゆる方法を試しながら、お互いに議論を積み重ねながら、なんとかたどり着けるものです。これは何もこのコンテストに限ったことではなく、僕たちが社会に出た後も、意見やバックグラウンドの違う他者と正面から向き合わなければいけない。確かにその営みは厳しいものでしたが、ぼくらのチームは全員が教育格差を深刻に捉え、その現実から逃げることなく、現実を現実のまま捉えた、この格差をなんとかしなきゃいけないという想いは共通であったからこそ、最後までとことん話し合えたのだと思っています。
Oチーム
Oチームでは、一人一人に合った支援の浹洽と社会関係資本の格差是正を目的とした政策案を3つ考案しました。1つ目に、一人一人に支援が行き届かない現状を打破するための保護者支援相談という政策を考えました。これは、小学校及び中学校入学段階の保護者相談を義務化することにより、ハイリスク層や子育てに困難を抱えている保護者を適切な支援に結び付けることを目的とし、計2回の相談以外にも義務教育課程において随時個別相談と情報発信を行うことにより、切れ目ない支援体制の実現を意図するものです。2つ目に、地域交流センターの創設により様々なNPO法人と学校、地域等の連携を目指す政策を考えました。財源についてはふるさと教育納税の仕組みを導入し、地域交流センターを介して各々のNPO法人に分配することとしました。最後に親や地域の社会関係資本の格差是正のため、国内交換留学という政策を考えました。これは小学校5、6年生が国内の姉妹都市の学校間で2泊3日程度交換留学を行うことで、異なる環境下での子どもとの交流を行うことを主眼としています。
現状分析を行う中で、現行政策は充実している一方必要な子どもたちに支援が行き届いていない点、進学意欲など自らの将来へのインセンティブは周囲の環境に大きく起因するものである点に問題意識を持つメンバーが多く、それらの解決により全ての子どもが貧困をはじめとした負の連鎖を断ち切る力を身につけられる社会づくりを主眼とした政策を考えました。一つ目の政策では、義務教育課程におけるすべての子どもを対象とすることにより相談への抵抗減を図り、主体は地方自治体の福祉課等が担うことにより、追加の人材は不要としました。2つ目の政策では、NPO法人、地域、学校が一体となって子どもたちが育つ場を整備することにより、子ども自らが負の連鎖を断ち切るインセンティブを持てることを目的としています。最後に3つ目の政策では全く異なる地域の子どもたちとの交流を通し、異なる環境で生活する同年代の子どもたちとかかわり、新たな視座を持たせることを目指しました。民泊や国内姉妹都市間で実施することにより、コストの削減も図りました。
学校教育における一元的な評価や日本の教育特有の横並び主義により、教育学習上困難を抱えた子供が能力を適切に評価されず、それが教育格差の再生産に繋がっているのではないかという点で特に議論が白熱しました。こうした点を解決するため、評価の多元化などを主軸とする政策もいくつか考えました。しかし官僚コンサルなど教育の一線で政策を考えておられる方々の話を聞き、現在ではむしろ多元的な評価により基礎学力がおろそかになっている点やそれが本質的な教育格差是正につながるか不透明である点などが明らかになりました。こうした点を勘案し、評価軸を大きく変えるのではなく子どもたちが数字で測定される学力のみに捉われず、様々な人間とのかかわりの中で自らの多様な能力に気付けるための政策を考えることとしました。そうした考え方を踏まえ、Oチームでは支援の周知および抵抗感の払拭や、社会関係資本といった観点から教育格差是正を目指しました。
Pチーム
就学前の子供への朝食提供や小学校での朝食提供を行う朝活パッケージ、出生前の子供に対して育児の仕方や子育ての考え方についてレクチャーする両親講習、小4から中2にかけて行うキャリア授業の3本柱です。
1つ目の朝活パッケージでは、就学前の子供がいる家庭に乳幼児食事を無料で配達します。アレルギーへの配慮や、品質の保証、栄養士等の監修のもとで行い、1食あたりのコストはおよそ220円です。また、小学校で始業前に朝食を無料提供することも考えています。希望する小学生に、地域の協力を得ながら長期休暇も含め継続的に提供していくことを想定しており、1食あたりのコストはおよそ60円です。この時間の確保のため、始業時刻を遅らせることも検討しています。
2つ目の両親講習は、現在一部の自治体で行われている両親学級を改変加えたものです。出産前後のケアだけでなく、子供の成長に合わせて使える支援制度の紹介やゆう長期的な視野での子供の育て方について紹介をします。複数回の実施を想定しており、規定回数以上の出席でもらえる育児セットのようなインセンティブも用意します。
3つ目のキャリア教育では小4〜中2の「総合的な学習の時間」の半分を活用し、発達段階に合わせたキャリア授業を展開します。その中で、様々なキャリアプランを紹介するキャリアデータベースや、学校の枠を超えて自身の興味関心に沿って行える職業体験も提供します。
私たちは、教育格差の根本的な原因に、経済的困窮、環境に起因する意欲格差、情報格差が存在すると考えました。その中でも、経済的支援だけでは解決できず自己責任とされがちな意欲と情報の問題に目を向けました。この問題を打破するには、生まれによらず、多様な生き方の存在を知ること、その生き方を自分が実現できると思えること、それを実現する環境が整っていることが必要になります。
これらを満たせるのが先ほどの3つの政策です。「多様な生き方を知る」という点では子に向けたキャリア授業で実現します。一方、情報の偏りという問題は子供のものだけではなく、親の意識にも表面化します。両親講習は、早期の段階から親に対しても子の生き方を意識してもらうきっかけとして活用されます。「実現できると思えること、実現する環境があること」の側面では、朝活パッケージが対応します。子供の学習に対する意欲や、基本的な学力の養成には自己肯定感・効力感や学習習慣、基本的生活習慣が欠かせません。継続的な朝食摂取やそれに伴うコミュニケーションをきっかけに、これらの確立を促そうという狙いがありました。そうはいっても、特に幼少期は、親の養育態度や愛情による影響は計り知れません。ここでも両親講習を活用し、親からのアプローチも行うことで包括的な支援となるよう工夫しました。
その政策で自分たちが救いたいと思う層に支援が届くのか、恩恵を受ける人のいない層に打つ政策になってしまわないかについての議論は時間をかけました。どうしても政策のアイデアが先行してしまい、地に足のつかない議論になってしまうことがありましたが、チームのメンバー同士で具体的に救いたい子供の姿を明確にすることで、本質に立ち返る作業ができるようになって行きました。
Rチーム
私たちは教育格差が発生する最初の段階である、就学前教育に問題意識を持ちました。教育格差是正のための就学前教育の量・質の改善と銘打って、①就学前教育の義務化、②保育士確保、③幼児教育研究の促進を一つの政策パッケージとしてまとめました。
私たちが特に問題意識を持ったのは、無園児の存在です。就学前教育の重要性は、ヘックマンの研究以後も継続的に調査が行われており、最近日本もその効果が実証されました。そうした中で就学前教育にアクセスすることのできない子どもが存在することは問題であると思います。また、無園児のバックグラウンドを見てみると、社会的に不利な要素を持っていることが多いです。就学前教育にはこうした子どもやその親と社会をつなげるという意義もあります。アクセスを整えた後は、就学前教育の質が問題となりますが、男性保育士の登用で人手不足を減らしたり、研究を進めることによって効率的な教育が可能になるような政策としました。
教育格差を教育の文脈以外からからも捉えることを意識しました。教育は日本社会でどのような役割を果たしているのか、などについて考えることなしに教育格差がどのような問題であるかを理解することはできないと思ったからです。また、自分たちの経験が意見にどのような影響を与えているかについて考える機会を多くとりました。