


―渡辺由美子氏フィール―
千葉大学工学部出身。配偶者の転勤に伴い一年間イギリスに移住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験する。帰国後、日本の子育て環境や教育格差、子どもの貧困などの社会課題を実感。2009年NPO法人キッズドアを設立。日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、低所得家庭やひとり親家庭の子どもたちへの学習支援や体験活動の提供、東日本大震災で被災した子どもたちへの支援や復興人材育成など行っている。 2016年第4回日経ソーシャルイニシアティブ大賞国内部門ファイナリストに選ばれる。 内閣府子供の未来応援国民運動発起人、内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員、厚生労働省 生活困窮者自立支援及び生活保護部会委員、一般社団法人全国子どもの貧困・教育支援団体協議会副代表理事。
千葉大学工学部出身。配偶者の転勤に伴い一年間イギリスに移住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験する。帰国後、日本の子育て環境や教育格差、子どもの貧困などの社会課題を実感。2009年NPO法人キッズドアを設立。日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、低所得家庭やひとり親家庭の子どもたちへの学習支援や体験活動の提供、東日本大震災で被災した子どもたちへの支援や復興人材育成など行っている。 2016年第4回日経ソーシャルイニシアティブ大賞国内部門ファイナリストに選ばれる。 内閣府子供の未来応援国民運動発起人、内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員、厚生労働省 生活困窮者自立支援及び生活保護部会委員、一般社団法人全国子どもの貧困・教育支援団体協議会副代表理事。
本コンテストの二日目には、学習支援、居場所支援を行っているNPO法人キッズドアの渡辺氏からお話を伺った。昨今日本では、子どもを取り巻く環境に関して、少子化問題や貧困が深刻な問題となっている。こうした問題を取り組む際、金銭的な支援だけではなく居場所支援といった精神的な支援が重要であると渡辺氏は強調されていた。
|日本の子どもの現状
日本では子どもの相対的貧困率が先進国の中で深刻な数字になっている。特にひとり親家庭の貧困率は48.1%であり、OECD加盟34カ国中ワーストである。ひとり親家庭の場合、就労率は先進国の中で1位であるにもかかわらず、相対的貧困率も先進国の中で1位である。
また子育て世代の20代、30代、40代において一世帯あたりの平均借入金額が平均貯蓄額よりも多くなっている。

渡辺氏は、相対的貧困下の子どもの深刻な状況についてお話しされた。キッズドアの学習会は、受験生が対象の場合、昼食を挟んで行うことがあるが、母親が働いている家庭の中には、お弁当を持って来ることができない子どもがいる。そういった子どもたちの多くはお昼ご飯代を持ってくるが、深刻な場合では100円しか与えられていないというケースもあった。100円で買えるだけの駄菓子を買ってしのいでもすぐにお腹がすくので、当然午後の勉強に支障が出てしまう。また、公立中学校しか通っていない状況であれば模試を受ける機会はなく、高校を決められない状態にある子どもいた。周りに大学を卒業した人や大学生がいない子どもは、キッズドアが運営している学習会に参加したことで初めて大学生に会い、そこで初めて自分の進路の選択肢に大学進学という道もあるということを知ったという。キッズドアは以前、母子生活支援施設でも活動していたことがあるが、父親のDVから逃れて母親と入所していたある女の子は、誕生日やクリスマスに家族でケーキを囲んで祝うというような経験をそれまでしてこなかった。彼女はスタッフや他の子どもとのささやかなクリスマスパーティーに参加して、それまでの生活とのあまりの差に、思わず輪を離れて壁際で「これって現実かなぁ」とつぶやいたそうだ。このように、過酷な状況で生きてきた子どもが本当にいるのだ。
経済的な次元を超えて衣食住、健康面といった複合的な不利が生まれている。この複合的な不利が子どもの可能性を奪っていくのだ。
|日本における少子化問題
日本では少子化が進んでいる。出生率が上位の県でも、また出生率が上昇していても子どもの増減率はマイナス値であり、将来的には人口が大幅に減少すると予測されている。

なぜ少子化が進んでいるのだろうか。一つには、税の再分配の偏りが大きいことがある。まず、そもそも給料から引かれる社会保障費が高く、若者がお金を持っていない。さらに、他国に比べて日本は教育費や子育てに配分する税の割合が少なく、子育てや教育で家庭の経済的な負担が大きすぎるのである。というのも高齢者を主なターゲットにした医療の歳出は約12兆円であり、年金の不足分を賄うための税金の負担も年間約12兆円に上る一方、子ども・子育てに対する社会保障支出は約2兆円で、教育に対する支出は約4兆円となっている。
少子化を食い止めるためには子どもへの投資を行うことが重要であり、投資を行うことで地域の持続性を創ることもできる。具体的には、児童扶養手当の増額、児童手当の増額や対象を高校生までとすること、学習支援、医療費や学校給食の無償化、奨学援助金の増額などが挙げられるが、より根本的な解決策として若年層の正社員化促進、女性の就労支援、同一労働同一賃金といった就労収入を増やすという策もある。
|教育格差を是正する学習支援
下グラフの平均点を見ると、低所得の家庭の子どもが1日3時間以上勉強しても、高所得の全く勉強しない子どもに及んでいない。
親の収入によって子どもの学力が決まる関係性は確かに存在しており、教育格差は現在の日本において明確に存在する問題となっている。この問題の背景には金銭的な問題だけでなく、住環境や時間の貧困、文化資本や社会関係資本の不足といった様々な要因が存在している。この教育格差を解決するべくキッズドアが行っている方策の一つに学習支援がある。


学習支援を行うことで上図のように自立する力をつけて貧困の連鎖を断ち切ることができる。多数のボランティアやスタッフ、同じ環境の子ども達と定期的に接する中で、社会性を獲得することができる。また、学生、社会人のキャリアプランを知り、働く意義や様々な人生観に接することで、積極的に生きる意欲を獲得することができるのだ。ひとり親家庭では親が仕事のため、帰宅後は子どもだけで過ごしているケースがある。キッズドアの学習支援は、安心して勉強できるスペースを用意することを通じて、こうした子どもたちに居場所を提供する役割も果たしている。居場所で多くの人と交流する中で、子どもたちはソーシャルスキルを獲得でき、自立に向けたトレーニングを積んでいく。
学習会に参加した子どもたちを対象に行った独自のアンケートによると、学校の授業でわからないことの有無に関する質問では、学校の授業の内容が「よくわかる+だいたいわかる」の割合が43.4%→77.9%に変化し、また、「ほとんどわからない+あまりわからない」の割合は56.5%→22.0%と大幅に減少した。このようにアンケートから学校の授業の理解度は大きく向上したことが分かる。理解度が改善されただけでなく、勉強に対する自信もついている。勉強に対する自信について、「ほとんど自信がない+あまり自信がない」の割合が78.8%→41.8%になり、「自信がある+やや自信がある」の割合が21.3%→57.9%に変化したのである。さらに、学習会参加満足度においても「とてもよかった」が75.4%と最も高い数値となっている。
学習会は高校生を対象としたものもある。下図からも分かる通り高校生になると行政の支援は中学校以前と比べると少なくなっている。

現状の若者に対する支援として若者サポートステーション等があるが、高校を中退してから若者サポートステーション等の支援を受けるまでのニート・引きこもりになっている期間は平均を取ると10年以上となっている。国の経済的損失と福祉支援を最小限に抑えるためにも、早期の支援を行って社会的孤立期間をなくすことが必要である。
渡辺氏は子どもへの投資の重要性について強調なさっていた。教育格差は学習支援に加えて、居場所支援によって文化的資本や社会関係資本の不足を満たすことで改善するという話を聞いて、様々なアプローチが必要であると感じた。また、子ども・若者・子育て世帯への税の再分配が非常に少ない現状について改善すべきだとおっしゃっていたことが印象に残った。高齢者だけでなく子ども・若者・子育て世帯への支援の重要性を再認識した。今回のヒアリングを通して、今まで本などで学習支援について知る機会はあったが、文面では分からない実際の貧困の子どもの危機的な現状や子どもに対する支援についての状況を、現場で課題解決に携わる渡辺氏から具体的に聞くことが出来たので非常に貴重な経験となった。