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―藤井康弘氏プロフィール―

 大阪府出身。昭和58年4月に厚生省に入省。保険局、旧自治省出向、旧老人保健福祉部、旧薬務局、岡山県庁、ジェトロニューヨークセンター、環境省等を経て、平成18年9月、厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課長、20年7月には同障害保健福祉部障害福祉課長、21年7月には同企画課長。その後、大臣官房国際課長、大臣官房審議官(年金担当)を経て、平成26年7月厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長、28年6月厚生労働省退官。一方で、平成19年4月 東京都に里親登録。これまで短期・長期等で10人あまりの子どもたちとともに生活。現在も一人受託中。

 大阪府出身。昭和58年4月に厚生省に入省。保険局、旧自治省出向、旧老人保健福祉部、旧薬務局、岡山県庁、ジェトロニューヨークセンター、環境省等を経て、平成18年9月、厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課長、20年7月には同障害保健福祉部障害福祉課長、21年7月には同 企画課長。その後、大臣官房国際課長、大臣官房審議官(年金担当)を経て、平成26年7月厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長、28年6月厚生労働省退官。一方で、平成19年4月 東京都に里親登録。これまで短期・長期等で10人あまりの子どもたちとともに生活。現在も一人受託中。

 元厚生労働省障害保健福祉部長であり、2007年から里親として子どもを受け入れている藤井康弘氏からお話を伺った。社会的養護が必要な子どもについてのお話の中で、生活習慣や愛着形成の影響や学習支援をする上での難しさを話してくださった。

社会的養護が必要な子ども達の状況

 虐待やDV、経済破綻などの理由で親が子どもを養育する能力が失われてしまった家庭の子どもたちは、社会的養護が必要とされる。厚生労働省によると社会的養護が必要な子どもは全国で約45000人いるという。

 親と生活することができない主な原因の一つが、虐待である。児童虐待はここ数年で増加していて、児童養護施設では6割、里親家庭でも3割強の子どもが親からの虐待を受けた経歴がある。児童相談所での虐待相談の中で、特に心理的虐待が増えていて、どちらかの親が子どもの前で、配偶者に暴力をふるったり、暴言を吐いたりする面前DVがよく報告されるようになった。近年は虐待の数は増えている一方で、児童相談所が保護した児童数は実はあまり増えていないという現象が起こっている。このことについて、虐待の通報の制度が充実するようになり、表面化してきたというのが一つの理由として考えられる。しかし、これ以上にもっと大きな要因がある。それは東京のような都市部の児童相談所のキャパシティの問題だ。児童福祉士が一人百数十件の事案を抱えていて、一人一人の子どもをきめ細かく見ることができない状態である。このため、児童相談所が一時保護する余裕がなくなってきている。また保護をしたとしても、一時保護する場所がないため、保護件数が増えていっていないと考えられる。また、社会的養護が必要な子どもには障害を持っている子どもも多い。里親家庭の4人に1人は何らかの障害を持っている。

 児童養護施設に入っている子どもの進学率については、高校進学は一般家庭と遜色ない所まで来ているが、大学進学率は未だ低い状況だ。厚生労働省は自立支援政策、学習ボランティアや学習塾の費用の支援、奨学金などの学習支援を講じているが、大学進学率はまだ低いという現状がある。

 これまでの話は、社会的養護という国と自治体の公的政策の傘の下に入ってきた子どもたちの話である。しかし、保護にまでいたらない貧困家庭の子どもたちも過酷な状況ではないだろうか?教育格差を考える上で保護までに至らない子どもたちの実態も同様にしっかり考えていくのが大事である。

 

家庭環境による要因の大きさ

 経済的理由で勉強ができない子どもたちに対して、学習機会を提供することが必要である。しかし、教育機会を均等に提供できるようになってもなお、教育格差の問題を解決することはできない。それは、教育格差の根本的な問題として家庭環境があるからだ。子どもが小学生になって勉強に取り組むようになった時、まず規則正しい生活習慣、たとえば毎日同じ時間に起きご飯を食べるといったことが重要になってくる。ゴミはゴミ箱に捨てるなどの生活習慣が身についてないと自分を律することはできず、短時間でも集中力を持って机に座って勉強をすることができなくなってしまう。

 「里親として受託した子どもたちは、それまでの家庭環境で身についた生活習慣を引きずっていました」ゴミ屋敷で生まれ育った子どもは幾つになってもゴミをゴミ箱に捨てられないということがあるという。貧困の連鎖と一般的に言われるが、その中で生活習慣も引き継がれているのだ。

アタッチメントの重要性

 社会的養護が必要な子どもについて、アタッチメント形成(愛着形成)ができていないことも大きな問題だ。アタッチメントは次のように形成される。

 乳児が泣いて食事やおむつ替えなどを求めたときに、特定の大人が共感的な反応を繰り返すことで、子どもは大人を、自分を絶対的に守ってくれる存在、つまり安全基地と認識するようになる。子どもは成長するに従い安全基地から離れて探索行動をして、不安になると安全基地に戻るということを繰り返し、次第に愛着の対象から離れることになる。そしてその特定の大人はその子どもに内在化され、子どもは自立していくのだとされている。

 子どもは、愛着関係が上手く形成されないと自分が「守られている」「愛されている」という実感が持てないため、大人になっても人を信頼できず、自己肯定感が低く向上心が持てなくなると言われる。アタッチメントは自信の根源となる。

 自信がないと子どもは自分を否定的に思い込み、十分できそうなことでもできなくなってしまうことがある。

 「愛着形成がちゃんとできていれば自分の存在自体に自信が持てて、一生懸命頑張って何かを達成する自分が想像できて、自分の興味関心がある勉強にも取り組むことができるのではないでしょうか」

 愛着形成ができていない子どもは、大人を信じられなくなることが多い。大人の言うことが自分のためだという認識がないため、学習支援において間違いを指摘されたときなどに、感情的になって暴れてしまう子どももいる。

 「愛着が作れなかったのは大人の責任ですが、犠牲になるのは子どもなんです」

 施設では少数の職員が多くの子どもを見るため、愛着形成を十分に行うことは難しい。このため、社会的養護においては乳幼児は可能な限り、施設ではなく里親のもとに置くべきである。社会的養護が必要な子どもが増える中、里親の重要性が高まってきている。

なぜ学習支援をするのか

 社会的養護が必要な子どもの中には、どんなに教えても大学に進学することが難しいという子どもは多くいる。すると「それでもなぜ学習支援をして勉強させるのか」、「そのような時間があるのだったらいわゆる手に職をつけることにフォーカスした方がよいのではないか」という意見がでることがある。それでも、社会的養護が必要な子どもに学習支援をしている理由は三つある。

 一つ目は、日本の社会に生きていくうえで最低限必要な知識というのは身につけなくてはならないからだ。例えば、コンビニで買い物をする時、自分で商品の値段の合計を計算できないと買い物をすることができない。このようなことは当たり前にできると思いがちであるが、現にできていない子どもたちがいる。二つ目は、何事も衝動的に決めずじっくり考えるということを身につけるのに、勉強は有効な手段であるからだ。愛着形成ができていない子どもの中には、自己肯定感が低く自信がないため、自分で何事も決められない子もいる。そういう子は隣の方がやった通りのことを真似してやることも多いという。社会的養護が必要な子どもは、そこで立ち止まって考えるのが苦手で、衝動的に行動してしまうことも多い。時には、隣の子を真似をして、良くない行動も同じようにしてしまうかもしれない。勉強をする中でしっかりと問題を読んで、立ち止まって考えるということが、衝動的な行動をしないことにつながるのだ。三つ目は、勉強は比較的簡単に達成感が得られるからだ。プリント一枚の中で一問でも解くことができると、達成感を得ることができる。本人ができたという実感を得られて、次も頑張ろうという気持ちになる。

 社会的養護が必要な子どもの学習支援は、家庭環境による生活習慣の影響や愛着形成が十分でないなどの理由で、多くの困難が伴う。しかし、社会的養護が必要な子どもにとって、学ぶという経験が人生の支えとなるため、藤井氏は学習支援を続けている。

 

 藤井氏は愛着形成ができないことが学習にどのように影響していくのか、そのことがどれだけ深刻なのかを、里親として社会的養護が必要な子どもと向き合っている立場から伝えてくださった。以前の家庭環境における生活習慣を引き継いでしまい、問題が起きるというのは里親の立場だからこそ分かることであり、事態の深刻さが分かった。また藤井氏は愛着形成ができておらず自信を持てない子どもに学習支援をする時、自信を持たせるために小さなことでも達成できたらよく褒めることを心がけているという。教育における愛着形成の重要性は以前から認識はしていたが、藤井氏の実際の話を聞き愛着形成の影響の大きさを改めて感じた。教育格差について考えていく時、愛着形成や家庭環境の要因について目を向ける必要があると感じた。

 藤井氏は愛着形成ができないことが学習にどのように影響していくのか、そのことがどれだけ深刻なのかを、里親として社会的養護が必要な子どもと向き合っている立場から伝えてくださった。以前の家庭環境における生活習慣を引き継いでしまい、問題が起きるというのは里親の立場だからこそ分かることであり、事態の深刻さが分かった。また藤井氏は愛着形成ができておらず自信を持てない子どもに学習支援をする時、自信を持たせるために小さなことでも達成できたらよく褒めることを心がけているという。教育における愛着形成の重要性は以前から認識はしていたが、藤井氏の実際の話を聞き愛着形成の影響の大きさを改めて感じた。教育格差について考えていく時、愛着形成や家庭環境の要因について目を向ける必要があると感じた

―印象的な言葉・ポイント―

教育機会を均等に提供できるようになってもなお、教育格差の問題を解決することはできない。

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