


―日野公三先生プロフィール―
明蓬館高等学校校長、NPO日本ホームスクール支援協会理事長
㈱リクルート、神奈川県第3セクター取締役などを経て2009年明蓬館高等学校を創立。2013年、発達障害生徒のためのSNEC(スペシャルニーズ・エデュケーションセンター)を品川に設立。高校段階では例のない、特別支援教育と才能開発センターとして注目を集め、全国主要都市にSNECを開設している。著書に『発達障害の子どもたちの進路と多様な可能性』(WAVE出版)がある。
今やどの小中学校でも特別支援学級が設けられるようになっている。しかし、高校進学率(通信制を除く)こそ96.5%にまで達したものの、高校で特別支援学級が設けられるケースは少ない。発達障害傾向にあり、特別な支援を必要とする高校生たちは少なくないはずなのに、彼らも普通学級で過ごさざるを得ないという現状がある。今回は、明蓬館高等学校校長の日野公三先生にお話を伺った。先生は公設民営型の高校である明蓬館高等学校を創設し、発達障害傾向の生徒を多く(全生徒の6割)受け入れている。
「学校を主語にした学校ではなく、生徒を主語にした学校を生涯をかけてつくろうと決めました。」
明蓬館高等学校校長、NPO日本ホームスクール支援協会理事長
㈱リクルート、神奈川県第3セクター取締役などを経て2009年明蓬館高等学校を創立。2013年、発達障害生徒のためのSNEC(スペシャルニーズ・エデュケーションセンター)を品川に設立。高校段階では例のない、特別支援教育と才能開発センターとして注目を集め、全国主要都市にSNECを開設している。著書に『発達障害の子どもたちの進路と多様な可能性』(WAVE出版)がある。
今やどの小中学校でも特別支援学級が設けられるようになっている。しかし、高校進学率(通信制を除く)こそ96.5%にまで達したものの、高校で特別支援学級が設けられるケースは少ない。発達障害傾向にあり、特別な支援を必要とする高校生たちは少なくないはずなのに、彼らも普通学級で過ごさざるを得ないという現状がある。
今回は、明蓬館高等学校校長の日野公三先生にお話を伺った。先生は公設民営型の高校である明蓬館高等学校を創設し、発達障害傾向の生徒を多く(全生徒の6割)受け入れている。
「学校を主語にした学校ではなく、生徒を主語にした学校を生涯をかけてつくろうと決めました。」
発達障害は二次障害・三次障害が問題
発達障害が疑われる児童の割合は、小中学校の通常学級で6.5%にのぼる。また、特別支援学校・学級に所属する児童および通級しながら特別な指導を受けている児童生徒の児童全体に占める割合は3.3%であり、全体で9.5%の児童生徒が障害傾向にあるということになる。


かつて、教師たちの多くは発達障害のことを正しく理解していなかった。日野先生ご自身もそうだったという。しかし、卒業生へのインタビューやアンケート調査をきっかけに、発達障害傾向の生徒自身が語る実際の問題を知るようになった。就職した卒業生の話の中で、「(職場での)昼休みの過ごし方がわからなかった、誰と一緒に食事をしていいか、人をどう誘ったらいいのか分からなかった。」という悩みが深く印象に残ったそうだ。不自由のない人が当たり前にできると思うようなことが、発達障害傾向の人にとっても当たり前にできることだとは限らない。
日野先生によれば、発達障害そのものよりも、むしろ思春期の二次障害・三次障害の発生のほうが問題だ。思春期の二次障害・三次障害として、同年齢との乖離や自信喪失、不登校などが挙げられる。
「思春期における二次障害・三次障害を軽減したり解消したりしなければ、仮に学業だけで進路を開拓できたとしても、やがて社会的自立(就労)の段階でつまずきやすいという傾向があります。」

高校における特別支援の重要性
冒頭で述べたように、高校における特別支援学級の設置は遅れている。
「義務教育ではないというのが、大方の言い訳となっています。ところが、高等学校への進学率が96.5%だという数字をもって高校が義務教育ではないと言えるのでしょうか?」
「多くの人が当たり前に高校へ進学する時代において、こうした支援がないことは許されるのでしょうか?」
発達障害の特性を持つ生徒と学校現場で接する上での課題は様々だが、まず、そもそも彼らの存在に気がつけないという大きな壁がある。学習面や行動面の気づきから生徒の発達障害傾向を見抜くことのできる教職員はまだ少なく、この子はサボっている、などと人格面に原因を求めてしまうことが多い。

教職員はこれらの生徒を「困った生徒」扱いしがちだが、発達障害について知れば知るほど、困っているのは教職員ではなく生徒たち自身だということに気づく。「生まれつき困っていると、今更何に困っていいのか分からなかった。みんなは頑張っているから克服している。頑張れない自分はだめな存在だ。」と結論づけた生徒がいたときには、日野先生はとても悲しく思ったそうだ。
「本人より先に大人たちが困ってはいけません。」
発達障害傾向の生徒への適切なアプローチ
日野先生は「教育と指導」ではなく、「支援と伴走」の重要性を強調する。つまり、指導することよりも福祉的なニーズへの対応を重視するのだ。たとえIQが高くとも、発達障害のために差別的な待遇を受け、居場所を失う生徒も少なくない。そこで、その子特有の認知やの思考の特徴を科学的なアプローチによって可視化し、生徒に適切に接する必要がある。明蓬館高校では、心理検査を活用して、一人一人にあった支援計画を立てているが、日本全体でみれば、このような質の高い個別支援計画を用意できている高校は少ない。
「その子に合った学習の仕方まで理解しないと、特別支援教育はもとより、普通教育もうまくいかないんじゃないかというのが私たちの考え方です。」
また、学習面に対するアプローチばかりが重視されるが、生徒たちが抱える課題の多くは学習面にとどまらない。過度な依存、被害妄想、慢性的な睡眠不足など、これら様々な課題群を日野先生は「幸せを大きく損なうダウンサイド」とまとめている。これらに対処できておらず、、他のセクター(福祉・医療)との連携が進んでいないというの問題がある。
この現状を改善しようと、明蓬館高校では、修正を加えながら細かく目標設定をして、個別に生徒を3年間サポートする。また、福祉的なニーズを満たす手段として心理職・福祉職を多く採用し、コーチング(支援員)・ティーチング(教員)・カウンセリング(相談員)分業体制をとっている。

発達障害傾向のポジティブな側面
一般的に、発達障害傾向であることはネガティブな印象を持たれがちだが、日野先生は必ずしもそうだとは考えない。「障害を持っている」ということが意味するのは特別な注文主(people with special-needs)であるということだ。人類の発達には発達障害傾向の人々の不自由さが一定の貢献をしてきた。
また、ビル・ゲイツやSEKAI NO OWARIのFukaseなどのように、発達障害であっても活躍する著名人は多い。特にアメリカでは、ASD(自閉スペクトラム症)傾向の企業家が多い。ASDは、その特性がプラスに転ずれば、アメリカでは才能として社会的に認められやすく、好感を持って支援される。このように、支援しだいで発達障害傾向の人の可能性は大きく広がるのだ。

発達障害傾向にある子どもが最終的に自立して社会に参加できるようにするために必要なのは、依存先を多様化するというアプローチである。学校内だけで解決しようとするのは難しく、福祉施設・医療機関などとの連携を行って、絶えず意見や情報を交換しなければならない。自立のためには、このような社会的連携が大切なのだと学んだ。
また、日野先生が「学校教育に足りないのは生徒の関心を引き出すこと」だとおっしゃっていたのが印象に残っている。確かに、学校での学習において子ども一人一人の関心事や意思が重んじられることは少ない。学校は個人の可能性を広げるどころか、今やらなければならない課題を設けることで子どもたちを縛りつけてしまっているのかもしれない。それよりは、子どもたちが何をしたいのかというところに重点を置くべきなのではないか。興味があることの方が、子どもたちも生き生きと学べるだろう。このようなアプローチは、発達障害傾向にある子どもの教育のみならず、教育という営み全体に対して示唆を与えてくれる。