「1Day GEIL 2019」課題文

1Day GEIL 2019 課題文

ーMissionー

日系ブラジル人の子供の高等学校進学率向上を見据えた上で、小中学校における日本語教育の実施環境を整備する政策を立案せよ。

日系ブラジル人の子供の高等学校進学率向上を見据えた上で、小中学校における日本語教育の実施環境を整備する政策を立案せよ。

1.問題の提示

外国人生徒、「全日制」への進学は6割どまり

 外国人が多く暮らす自治体で構成する「外国人集住都市会議」が、会員となっている自治体[1]で外国籍の中学生の進路を調べたところ、全日制高校[2]へ進学した割合は62%にとどまることが分かった。昨年3月に卒業した人を対象に調べた。

 国全体では平成23年の調査で94%が全日制高校に進学。大きく差が開いている。

 上の文章は、2019年2月28日の日本教育新聞の記事より抜粋したものである。 近年の高校皆進学の傾向を踏まえると、日本における外国につながる子供[3]の高校進学率は相対的に顕著に低いと言える。子供がその出自のために進学を阻まれることはそもそも許容し難い事であり、外国人の移入およびその定住化の傾向が強まるなか早急に対処すべき政策課題であろう。文化的ハンディキャップを自明に抱える外国人が高卒というキャリアを獲得できないことにより被る社会経済的負担は、日本人のそれと比較しても重く、彼らの市民としての自立を見据えたとき高校進学の意義は大きいと言えよう。

 こうした進学率の背景を一元的に語ることは困難であり、子供の目下の生活から彼らを取り巻く環境や制度まで、構造的に分解し考察する必要がある。

 子供たちの実生活に目を向けると、高校進学を阻む様々な背景を発見できる。彼らの多くは、1990年の入管法改正以降急増したいわゆる「ニューカマー」と呼ばれる移民である。文化的差異・経済的格差のある国々からやってくる外国につながる子供及びその家庭は、言語面・金銭面・情報面などにおいて大きなハンディキャップを抱えている。特に言語面の問題についてはその厳しい現実が指摘されており、文部科学省の調査によれば平成28年現在公立学校における日本語支援を必要とする児童生徒数は43947人で、10年前の同じ数字の1.7倍に相当する。今後も増加が見込まれる外国人生徒に対して、国家としていかに日本語教育を施すかを検討する意義は、大いにあるといえよう。

2.なぜ日本語教育が問題か

 外国人生徒の抱えるいくつかの深刻な問題の中の一つとして日本語の問題が存在することは上で述べたが、具体的になぜ問題と言えるのだろうか。

 元来我が国の高等学校については、制度上義務教育の外にあることから、そこに入学するに値する能力を備えている者のみが教育を受けるべきとする考え方(いわゆる「適格者主義」[4])が採用されていた。近年こそ、高校皆進学の状況に鑑みて意志ある者全てに教育を授けるべきとする考え方も政府政策に反映されつつあるが、いずれにせよ高校卒業後の自立した1市民としての社会生活まで見据えた時、高校入学段階で一定程度の能力を備えている必要はあるだろう。そして、そうした能力を獲得するためには、「学習言語」としての日本語を使用した実質的な教育保障が求められることとなる。

 また、日本語面でリスクを抱えることの持つ影響は高校進学にとどまらない。言語の機能は学習ツールのみならず他者とのコミュニケーションツールでもあり、生活に必要な情報獲得のツールでもある。高校在学中から卒業後にいたるまでの様々な社会参加の手段として、日本語は重要な役割を果たす。もちろん個人の文化選択を左右するという意味で、多言語保障を求める必要、すなわち日本語と母語の兼ね合いを検討する必要があるのは言うまでもないが、外国人が日本で生活を営む上で日本語は、実質的に最も基本的なハードルであると言って差し支えないだろう。実際に他国他言語と比較しても、世界の主要言語のなかで日本語の学習言語としての難易度は高いとされる他、職場や日常生活における日本語以外の使用は極めて限定的である。母語保障とは別に、一定レベル−−−今回については、高等学校入学に値するレベル−−−の日本語教育を保障する事は、移民受入国としての責務といえよう。

3.現行の取り組みと今後の課題

 記憶にも新しい2019年5月末、衆議院において日本語教育推進法案が可決されたが、国からは指針の提示にとどまっており、具体的な対応をするか否かは各自治体に任されているのが大まかな現状となっている。外国人の集住する自治体と散住する自治体との間での対応の格差、地域間格差の発生を促している点からも、国家介入の必要性はあると言える。また、取り組みの盛んな自治体の多くの事例に目を向けても、ボランティアや民間団体の自主性に委ねられた部分が未だ大きい。初期日本語教育が特に専門性を求めるのに対するボランティアの質の不安定さに加えて、彼らの絶対的な人数が近い将来減少することを踏まえると、現状の高い依存性を保持することはあまり現実的でない[5]。行政からは現在、教育カリキュラムや評価方法・指導計画の作成や実践などが示されているが、各自治体や学校で実践するにあたっては人的資源の活用の仕方や各アクターの協力の方法、教員養成課程それ自体などをより詳細に検討する必要がある。将来的にはボランティアに頼らずとも日本語教育が十分に実施されることが望ましいが現状では、1980 年代以来多くの地域で開かれている民間の日本語教室やボランティアに自治体以上にノウハウが蓄積されていることも否定できず、ボランティアという存在の再定義、彼らとの協働が必要であると言える。ただし、各地域で支援のあり方に格差が出ないように提携のあり方をはっきりと定めていくことがやはり検討されるべきである。

 「外国につながる子供」と一口に言っても多様な国籍の子供が考えられるが、今回のミッションでは日系ブラジル人の子供について扱うこととする。というのも、彼らについては、その顕著に低い高校進学率に加え、背景に存在する様々な社会的なリスクに関する研究が蓄積されている。現在我が国にブラジル国籍の外国人が19万人以上在留している[6]現状を踏まえても、彼らへの教育について考察することは、外国につながる子供全体への教育問題を考える有効な切り口となると考える。

【参考文献】

・宮島喬(2014)『外国人の子供の教育ー就学の現状と教育を受ける権利』東京大学出版

・小島祥美(2016)『外国人の就学と不就学ー社会で「見えない」子どもたち』大阪大学出版

・志水宏吉, 清水睦美(2001)『ニューカマーと教育ー学校文化とエスニシティの葛藤をめぐって』明石書店

・移民政策学会設立10周年記念編集刊行委員会(2018)『移民政策のフロンティアー日本の歩みと課題を問い直す』明石書店

・太田晴雄(2000)『ニューカマーの子どもと日本の学校』国際書院

・日本教育社会学会(2017)『教育社会学のフロンティア1』岩波書店

・日本教育社会学会(2018)『教育社会学のフロンティア2』岩波書店

・ 佐伯康考 (2016)「定住外国人の子どもの高校進学についての経済学的考察」『経済学論究』70 巻2号,関西学院大学 https://kwansei.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_ main_item_detail&item_id=25846&item_no=1&page_id=30&block_id=84

・近藤敦(2010)「移民政策研究の意義と課題』『社会言語科学」12巻2号, 名城大学https://www.jstage.jst.go.jp/article/jajls/12/2/12_KJ00008440298/_pdf

・文部科学省(2014)「初等中等教育分科会高等学校教育部会 審議まとめ ~高校教育の質の確保・向上に向けて~(案) 第1章 高校教育をめぐる現状とこれまでの取組」

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo2/siryou/attach/1346645.htm

・文化庁(2015)「地域における日本語教育の実施体制について 中間まとめ (『論点7 日本語教育のボランティアについて』)」http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/nihongo_jisshi_150827.pdf

・文化庁(2016)「地域における日本語教育の推進に向けて-地域における日本語教育の実施体制及び 日本語教育に関する調査の共通利用項目について-」

http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/hokoku_160229.pdf

・文部科学省(2017)「『日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成28 年度)』の結果について」

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/06/__icsFiles/afieldfile/2017/06/21/1386753.pdf

(リンクはいずれも6月8日現在)

[1] 会員となっている都市は、ニューカマーと呼ばれる南米日系人を中心とする外国人住民が多数居住している。2019年4月現在の会員都市は、東海地方を中心に全部で13ある。

[2] 全日制のほか、定時制・通信制の高校、および高等学校相当として指定した外国人学校でも、「高校卒業資格」を取得できる。一般に、平日の昼間に授業を行う全日制と比較して、定時制通信制の高校についてはその中退者率の高さが指摘されている。

[3] 外国人政策について考えるうえで「どこまでを外国人とするか」という問いは切り離し得ない。今回は日本国籍の有無に関わらず、二言語二文化的背景を有する「外国にルーツをもつ子供」について考察することとする。なお、以降の本文およびケースブックにおいて登場する「外国人の子供」という語句は、この意味において用いられるものとする。

[4] この言葉の位置付けについては、文部科学省の中央教育審議会初等中等教育分科会高等学校教育部会(平成26年度)の資料に詳しい。

[5] 特に日本語教師についてはその待遇の厳しさが指摘される。実際日本語教師の年収は一般に100-300万円とされているが、これは彼らが生計を立てるのに決して満足な数字ではない。

[6] 法務省によると、ブラジル国籍の在留外国人総数は平成30年6月現在196781人である。リーマンショック以後の数年間は減少傾向にあった総数であるが、直近の3年間は、再び増加傾向となっている。