学生団体GEIL2018のケーステーマが決定致しました。今年度のケーステーマは『健康』です。

 

健康への問題意識

 

近年、健康関連産業の市場規模はますます拡大している。様々なダイエット法や健康に良いとされる食べ物、スポーツジムなどへの関心が高まっており、健康を維持するためなら多少の出費を惜しまない人も多くなっている。だが、人々の間の健康志向の高まりにも関わらず(1)、日本人の平均寿命の延びは鈍化傾向にある。メタボリック・シンドローム患者および予備軍の割合は10年前から変わっておらず、成人男性の肥満率に至っては、20年前と比べて8~12%も悪化しているという(2)。つまり、日本人の健康は良くなるどころか、ある側面ではむしろ悪化していると見ることさえできるのである。なぜこのような事態が生じるのだろうか。

 

背景にあるのは「健康格差」という厳然たる事実である。生活に余裕がなく、自分と家族の健康に気を使っていられないという人たちが数多く存在する。さらに、問題は生活習慣にとどまらない。幼少期の栄養状態や受けた教育のレベル、居住地域、職業性ストレスなどの要因はすべて、生活習慣を介さない経路からも、成人期の健康に影響する(3)。こうした社会経済的状況の違いによって個人間・集団間に生じる健康状態の差こそが「健康格差」である。私たちの健康は実際には、自身の努力だけでは簡単には変えられない要因によって規定されている部分が大きいのだ。何を当たり前のことを、とお思いになるかもしれないが、実はこの事実は健康志向の高まりの陰で見過ごされている。健康のための選択肢が増えていく中で、「健康を維持できないのは自己責任」という意識もまた広がりつつある。こうした状況を放置すれば、健康格差はこの先も拡大の一途を辿るだろう。

 

健康格差の拡大は容認されえない社会的不正義であり(4)、しかも対策に時間を要する問題である。早くからこの問題を認知していたイギリスなど海外の一部の地域は、すでに有効な対策を立案・実行しており、成果を挙げ始めている。一方、健康格差の実態把握が遅れた日本においては、ここ5年ほどでようやく健康格差の解消が政策課題として認められた(5)ところであり、十分に有効な政策的対応がなされているとは言いがたい。

 

こうした現状を踏まえ、GEIL2018は「健康政策」をテーマとして選定した。それは必ずしも、医療や介護・福祉に関わる政策だけに限られない。社会と健康の複雑な関係に注目し、健康格差の問題に多角的にアプローチすること。それが私たちの考える健康政策である。

 

(1)厚生労働省(2013)「『健康日本21』最終評価(概要)について」〈http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001wfoo-att/2r9852000001wfr9.pdf〉(2017/12/25)

 

(2)近藤克則(2013)『健康格差社会を生き抜く』pp.83

 

(3)社会経済的状況と健康との関係を示すモデルについては次を参照した。厚生労働省(2012)「健康日本21(第二次)の推進に関する参考資料」pp.10〈http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_02.pdf〉(2017/12/26)

 

(4)このような立場をとる根拠については、次の報告書と立場を共有しているため参照されたい。WHO(2008)『一世代の内に格差をなくそう~健康の社会的決定要因に対する取り組みを通じた健康の公平性:健康の社会的決定要因に関する委員会最終報告書』日本福祉大学訳(2013)〈http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/69832/73/WHO_IER_CSDH_08.1_jpn.pdf〉(2017/12/26)

 

(5)厚生労働省が2012年に策定した「健康日本21(第二次)」では、「健康格差の縮小」が初めて政策目標として掲げられた。